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大阪地方裁判所 昭和58年(行ウ)81号 判決 1988年6月24日

原告

植田肇

他六名

右七名訴訟代理人弁護士

辻公雄

竹川秀夫

井上善雄

小田耕平

国府泰道

原田豊

吉川実

松尾直嗣

斎藤浩

大川一夫

桂充弘

阪口徳雄

右熊野実夫訴訟代理人弁護士

森谷昌久

被告

岩田光利

被告

川上勇

被告

松江潔

被告

岡崎義彦

右四名訴訟代理人弁護士

辻中一二三

辻中栄世

森薫生

主文

一  被告岩田光利は、大阪府に対し、金六七万八三七〇円及びこれに対する昭和五八年八月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告岩田光利に対する大阪市南区笠屋町「陽気」への金二三万四二〇円の支出による損害賠償の訴え及び原告らの被告川上勇、同松江潔、同岡崎義彦に対する訴えをいずれも却下する。

三  訴訟費用中、原告らと被告岩田光利間に生じた分はこれを四分し、その一を原告らの、その余を同被告の各負担とし、原告らと被告川上勇、同松江潔、同岡崎義彦間に生じた分は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、大阪府に対し、金九〇万八七九〇円及びこれに対する被告岩田光利、同川上勇、同岡崎義彦は昭和五八年八月二七日から、被告松江潔は同月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  被告ら

1  本案前の答弁

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも大阪府下に居住する住民である。

(二) 被告らは、昭和五七年五月ころ、大阪府水道部(以下「水道部」という。)においてそれぞれ次の地位にあつた。

被告岩田光利(以下「被告岩田」という。)大阪府水道企業管理者

被告川上勇(以下「被告川上」という。)水道部長

被告松江潔(以下「被告松江」という。)水道部次長

被告岡崎義彦(以下「被告岡崎」という。)水道部総務課長

2  公金の支出

被告らは、昭和五七年五月三一日、同年四月一二日に大阪市南区笠屋町「陽気」において会議接待をしたとして、二三万四二〇円を支出した(以下「陽気に対する支出」という。)ほか、別表一記載の各会議接待をしたとして、昭和五七年度水道事業費の会議接待費と称して、同表の会議費支出金額欄記載の各金額合計六七万八三七〇円を支出した(以下「本件各支出」という。)。

3  公金支出の違法

右陽気における会議接待及び別表一記載の各会議接待はいずれも実在せず、右各支出は、他の目的のためになされたものであり違法である。

4  被告らの責任

(一) 被告らの権限及び義務

(1) 被告岩田は、陽気に対する支出及び本件各支出当時水道企業管理者の職にあり、水道企業の長として水道部を管理指導し、その支出についても監督する義務を負つていた。

(2) 被告川上は、陽気に対する支出及び本件各支出当時、水道部長の職にあり、管理者を補佐して水道部を管理指導し、支出についても監督する義務を負つていた。

(3) 被告松江は、陽気に対する支出及び本件各支出当時、水道部次長の職にあり、管理者及び水道部長を補佐して部下を管理指導し、支出についても監督する義務を負つていた。

(4) 被告岡崎は、陽気に対する支出及び本件各支出当時、総務課長の職にあり、一〇〇万円以下の支出については、決裁権者としての権限を有し、右各支出についての決裁権を有していた。

(二) 被告らの違法行為

(1) 被告らは、いずれも公金の支出手続を支配ないし監督する立場にあることを利用して、陽気に対する支出及び本件各支出に先立つて、内容虚偽の経費支出伺等の書類を作成し、正規の会議等の開催に関して出金するかのような体裁を整えて出金し公金を私することを共謀して、右共謀にしたがい書類等を作成して陽気に対する支出及び本件各支出をし、もつて公金を違法に支出した。

(2) そうでないとしても、被告岡崎は、決裁権者としての地位を利用し、内容虚偽の経費支出伺を作成し、または、その部下に右書類を作成させ、前記のとおりいずれも違法な陽気に対する支出及び本件各支出を行つた。その余の被告らは、いずれも、被告岡崎をはじめとする部下を監督する義務を負いながら、自ら指示しまたはその監督義務を怠り、虚偽の公文書の作成を指示または黙認し、いずれも違法な陽気に対する支出及び本件各支出をさせた。

(三) 損害

被告らの右違法行為により、大阪府は支出金合計九〇万八七九〇円の損害を被つた。

5  監査請求

原告らは、昭和五八年五月三〇日付で被告らの本件各支出につき大阪府監査委員に対し、地方自治法(以下「法」という。)二四二条一項に基づく監査請求(以下「本件監査請求」という。)をしたところ、大阪府監査委員は、同年七月二七日、右監査請求には理由がないとして原告らに対してその旨通知した。

6  よつて、原告らは、法二四二条の二第一項四号に基づき、大阪府に代位し、被告らに対し、各自、大阪府に対し、九〇万八七九〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である被告岩田、同川上、同岡崎は昭和五八年八月二七日から、被告松江は同月二八日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  本案前の申立についての被告らの主張

1  法二四三条の二について

法二四三条の二第一項の規定が適用ないし準用されるべき場合には、賠償責任の存否もしくは範囲は同条所定の賠償命令によつて初めて確定されて具体的な義務となるに至り、その責任の実現ももつぱら自己完結的な同条所定の手続によつてのみ図られるべきものであつて、民事訴訟によることは許されない。本件請求は、被告らが水道部の職員として違法に公金を支出したとして、地方公営企業法三四条によつて準用される法二四三条の二第一項に基づく被告らの大阪府に対する損害賠償義務の履行を代位請求するものであるが、右に述べたとおり、右賠償責任の存否もしくは範囲の決定またはその責任の実現は、法二四三条の二所定の手続によつて図られるべきものであり、これとは別に、住民が法二四二条の二第一項四号の規定に基づき大阪府に代位して被告らに対し大阪府の被つた損害の賠償を求めることは許されないから、本件各訴えはいずれも不適法である。

2  監査請求前置について

本件請求中、陽気に対する支出二三万四二〇円については、原告らにおいて監査請求を経ていないから不適法である。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実中、別表一記載の各会議接待が存在しないことは認めるが、その余の事実は争う。

3  同4の事実及び主張は争う。

4  同5の事実は認める。

四  本案についての被告らの主張

本件各支出は次のとおり適法である。

1  会議開催の必要性

大阪府営水道は、昭和五五年度に今後の増大する水需要に対処することを目的として、大阪府営水道第七次拡張事業(以下「七拡事業」という。)を開始したが、昭和五六年当時七拡事業の累計進捗率は、約一一パーセントにすぎず、予定より遅延している状況にあつた。その原因は、財源の確保、水利権の確保及び水道施設用地の確保等が必ずしも十分に行われていないことにあり、水道部においてはこれらの確保が最も重要な課題となつており、次のように、関係諸機関に対する折衝、水道部内の協議、調整が必要であつた。

(一) 七拡事業の年間予算約一四〇億円のうち約四〇億円を国庫補助金、約八〇億円を企業債、約二〇億円を自己財源によつてまかなうことになつていたが、公共事業抑制策がとられていたこともあり、補助金の額は年間約三〇億円余にとどまつていた。このような状況のもとで、水道部としては所管庁である厚生省に対して工事の進捗状況を十分に説明して補助金の増額を強く要求する必要があつた。

(二) 七拡事業で予定している計画一日最大給水量毎秒三一立方メートルを実現するためには、その水源である淀川水系に新たなダムを建設すること及び紀の川の水利権を取得することが必要であり、水道部としては、河川法によりこれらを管理する建設省近畿地方建設局(以下「近畿地建」という。)にこれを要求する必要に迫られていた。また、水道部は、淀川の水質保全についても近畿地建と十分検討する必要があつた。

(三) 大阪府議会では、七拡事業に関して水需要の見通し、水資源関係、工事の促進等多くの問題が提起されており、水道部としては、府議会との関係を円滑にするほか、水道事業関係の府会議員に対しても適宜七拡事業の進捗状況を報告して、助言、協力を得なければならなかつた。また、七拡事業では、水道施設、特に浄水場建設のための用地を確保することが重要な課題であり、水道部は、この点についても地元府会議員に水道部と地元との調整を依頼する必要があつた。

(四) 水道部では、災害時における給水の確保及び水道施設の復旧に関して大阪府との間で相互応援体制をとるための協定締結が急がれており、また、既存の水道施設用地の管理体制を充実するための方策も検討されつつあり、水道部内においても、早急にこれらの問題について最終的な協議、調整をする必要があつた。

2  会議開催の事実

七拡事業遂行のためには、右のとおり関係諸機関との間の十分な意思疎通を図ることが必要であり、また、七拡事業を含む水道事業運営上の諸問題について部内で十分検討、調整することが必要であつたため、右必要上、別表二記載の各会議接待(以下「本件各会議接待」という。)が行われた。その詳細は次のとおりである(水道部での役職は開催当時のものである。)。

(一) エンにおける会議

(1) 昭和五六年一二月一六日開催の会議

阿部水道部次長の決定により開催されたもので、府会議員一名、阿部及び多田水道部総務課主査が出席し、七拡事業を含む水道事業に関して指導、助言を受けていた右府会議員との間で七拡事業に関する報告、懇談がなされた。

(2) 昭和五七年二月一日開催の会議

被告岡崎の決定により開催されたもので、府議会事務局企業水道常任委員会担当職員二名、居村水道部総務課長代理及び田中同総務係長が出席した。右会議では、昭和五七年二月の定例府議会に先立つて開催される企業水道常任委員協議会において審議予定の昭和五八年度予算案その他七拡事業関係の説明並びに同協議会の日程調整及び視察場所、日時についての打ち合せがなされた。なお、右会議は、同日午後から府議会庁舎内で行われた会議に引続いて行われたものである。

(二) ベラローサにおける昭和五六年一二月二一日開催の会議

中川水道部長の決定により開催されたもので、近畿地建幹部職員三名、中川及び船橋水道部技術長ほか一名が出席した。右会議では、七拡事業推進に不可欠の水利権及び水資源に関し、近畿地建に対し、計画最大給水量毎秒三一立方メートルに対する不足分毎秒九立方メートルを確保するために淀川水系に新たなダムを早期に建設すること及び紀の川分水を認めることを要請した。

(三) よし井における会議

(1) 昭和五六年一二月八日開催の会議

阿部水道部次長の決定により開催されたもので、府会議員一名、阿部、被告岡崎、池永水道部浄水課長が出席し、七拡事業に関し、南大阪方面の状況につき情報及び意見の交換が行われた。

(2) 昭和五七年二月九日開催の会議

桝居水道企業管理者の決定により開催されたもので、同管理者、阿部水道部次長、船橋同部技術長、池永同浄水課長が出席した。当時、災害時及び漏水時における給水の確保等につき大阪市との間で相互応援体制をとるための協定を締結する準備が進んでおり、右会議では、その最終段階での部内調整が行われた。ちなみに、右検討をふまえて同年二月二四日大阪市との間で「大阪府水道と大阪市水道の相互援助に関する協定」が締結されるに至つた。

(3) 昭和五七年二月二五日開催の会議

阿部水道部次長の決定により開催されたもので、阿部、被告岡崎、水道部職員組合委員長、同副委員長らが出席した。従来から水道部においては、水道施設用地の管理体制を充実するため、水道部の退職職員を構成員とする団体を設立し、右団体に水道施設用地を管理させることが検討されていたが、右会議では、右管理体制についての最終的な話合いが行われた。なお、右会議は、同日それまで水道部庁舎内で行われた会議に引続いて行われたものである。ちなみに、右検討をふまえて同年三月には大阪府水道施設協会が設立され、同協会が水道施設用地を管理することとなつた。

(四) 嵯峨野における会議

(1) 昭和五六年五月二八日開催の会議

桝居水道企業管理者の決定によつて開催されたもので、府会議員一名、桝居、阿部水道部次長が出席し、七拡事業を含む水道事業に関して指導助言を受けていた右府会議員との間で七拡事業に関する報告、懇談がなされた。

(2) 昭和五六年六月二三日開催の会議

中川水道部長の決定によつて開催されたもので、厚生省幹部職員一名、中川、被告岡崎、大槻水道部浄水課主査が出席し、右厚生省職員に対して、七拡事業の進捗状況及び今後の方針について報告がなされた。

(3) 昭和五六年八月七日開催の会議

阿部水道部次長の決定によつて開催されたもので、府会議員二名、阿部、居村水道部総務課長代理が出席し、七拡事業を含む水道事業に関して指導助言を受けていた右府会議員との間で七拡事業に関する報告、懇談がなされた。

(4) 昭和五六年一〇月一日開催の会議

阿部水道部次長の決定によつて開催されたもので、厚生省課長一名ほか一名、阿部、浜野水道部工務課長が出席し、右厚生省職員に対して、七拡事業の進捗状況について報告がなされた。

3  開催場所及び支出金額の相当性

本件各会議接待は、いずれも夕刻から飲食店で開催されたものであるが、七拡事業遂行上、助言協力等を求める相手方と懇親を通じ意思の疎通を図り、同事業の円滑な推進を期すために必要最小限の範囲内で酒食をともにすることは社会通念上是認されるところである。また、部内会議及び府議会事務局職員との会議については、いずれも府庁庁舎内あるいは水道部庁舎内における会議に引き続いて行われたものであり、会議の場を飲食店に移したのは、会議が勤務時間外にわたり、また、庁舎の暖房も切れたためであつてなんら不当ではない、さらに、各飲食店に対する支出金額も一名当り約一万円ないし三万円であつて、常識的な範囲内の金額と考えられる。

4  会議費支出の手続の適法性

(一) 水道部の会議費支出事務手続の原則

大阪府水道部会計規程(昭和三九年水道企業管理規程第一号、以下「会計規程」という。)、大阪府水道部事務決裁規程(昭和五三年水道企業訓令第三号、以下「事務決裁規程」という。)及びこれらに基づく事務処理の細目に関する定めでは、水道部における会議費支出事務手続の原則について、次のとおり規定している。

(1) 経費支出伺の作成

会議を開催する場合は、その主催課において、会議開催に先立つて、会議の目的、開催年月日、開催場所、出席者、債権者、経費支出予定額、会計年度及び予算科目等を記載した経費支出伺を作成し、決裁を受ける。

(2) 支出伝票の発行

債権者からの請求に基づき、会議の主催課において履行の確認を行い、支出伝票を発行し、支出命令についての決裁権者がこれを決裁する。

(3) 支出事務

金銭出納員が支出伝票を審査したうえ、小切手を振出し、口座振替の方法によつて債権者に支払う。

(二) 本件各支出の支出目的

本件各支出は、七拡事業の円滑な推進をはじめ、水道事業遂行のため関係諸機関と種々懇談し、あるいは、水道部内において協議する必要上開催された会議の費用として支出されたものであり、その目的は正当である。

(三) 本件各支出の支出事務手続

本件各支出は、いずれも、次の手続を経て、支出会計科目・昭和五七年度支出水道事業会計、款・水道事業資本的支出、項・建設改良費、目・第七次拡張事業費、節・工事費、附記・工事諸費として支出された。

(1) 水道部は、水道企業管理者、水道部長、同次長または同総務課長の意思決定に基づき、前記2のとおり、本件各会議接待を開催した。

(2) 本件各会議接待後、主催課である総務課において、債権者からの請求に基づき、前記(一)(1)に掲げる事項を記載した経費支出伺を作成した。その概要は、会議の目的を「七拡事業調査に伴い水道事業の諸問題について種マ懇談のため」とし、開催年月日、開催場所、出席者、債権者を別表一記載のとおりとした。そして、その各経費支出伺については、専決権者である総務課長の被告岡崎の専決を受けた。なお、水道部では、事務決裁規程六条二三号により一件一〇〇万円未満の予算の執行については総務課長の専決事項とされている。

(3) 本件各会議接待の主催課である総務課は、支出伝票を発行し、支出命令についての専決権者である筒井康雄総務課長代理の専決を得た。なお、水道部では、事務決裁規程一二条、九条、これに基づく経理事務権限一覧表により一件一〇〇万円未満の会議費の支出命令については総務課長代理の専決事項とされている。

(4) 金銭出納員は、右各支出伝票を審査したうえ、昭和五七年五月三一日小切手を振出し、口座振替の方法によつて別表一記載の債権者にそれぞれ同表記載の金員を支払つた。

(四) 支出事務手続の適法性

本件各支出の事務手続は、その支出が各債権者からの請求に基づき、決裁権限のある者の決裁を経てなされたものであり、いずれも適法である。また、次の問題はあるが、いずれも適法性に影響はない。

(1) 本件各支出は、会議開催後にその支出事務手続が行われているが、これは、予め予測しえない会議を開催する必要が生じたため、もしくは会議開催は予定されていたが、その出席者、特に被接待者の日程を予め把握できなかつた等の事情があつたために、事前に経費支出伺を作成することができなかつたことによるものである。

(2) ベラローサを除く債権者については、別表二の別表一との関係欄記載のとおり、数回分をまとめて支払つているが、これは、同一の店を短期間に数回にわたつて利用したため、債権者においてもその都度請求することなく、数回分をまとめて一回分として請求してきたことによるものである。

(3) 経費支出伺に架空の被接待者名を記載したのは、本件各会議接待においては、七拡事業の円滑な推進のため高度な折衝や調整が行われた関係上、経費支出伺が内部的な文書であるとはいえ、被接待者の氏名を明記することがはばかられたこと及び数回分の会議接待をまとめて経費支出伺を作成したため、実際の出席者を記載することができなかつたことによるものである。

(4) 本件各会議接待は、いずれも昭和五六年度中に開催されたものであるが、ベラローサを除く債権者においてその費用をまとめて昭和五七年度に入つてから別表一の会議費支出金額欄記載のとおりの金額を請求してきたため、水道部は、右請求に基づいて各債権者について債権額を確定し、昭和五七年五月三一日その各支払をした。

五  本案前の申立についての被告らの主張に対する原告らの反論

1  本案前の申立についての被告らの主張1は争う。

2  同2は争う。法二四二条の監査請求は、監査委員の職権の発動を促すに足りる程度のものであればよく、その後の住民訴訟における訴訟の対象は、監査請求の対象と細部まで一致する必要はない。陽気に対する支出は、明確には監査請求の対象にされてはいなくても、本件請求の他の支出と同様に七拡事業に関する工事諸費の会議費の名のもとに支出されたものであり、本件請求の他の支出(本件各支出)とともに被告らの連続的な行為の一環と評価できるから、本件各支出について監査請求がなされれば、同監査請求が陽気に対する支出の監査の職権の発動を促すものとしては十分であるから、陽気に対する支出についての請求も監査請求の前置の要請を充たしているというべきである。

六  本案についての被告らの主張に対する認否

1  本案についての被告らの主張中、冒頭の主張は争う。

2  同1の事実及び主張は争う。

3  同2の事実は否認する。仮に、右主張の各会議接待が存在するとしても、右会議接待と本件各支出との関連性はない。

4  同3、4の事実及び主張は争う。

七  本案についての被告らの主張に対する反論

仮に、本件各会議接待が行われ、この費用の支払のために、現実には存在しない別表一記載の各会議接待についての本件各支出金を充てたとしても、右金員の支出は次のとおり違法である。

1  本件各会議接待における酒食の提供は、厚生省の職員、近畿地建の職員、大阪府議会の議員などいずれも公務員である被接待者に対して、具体的な補助金等の増加を求めたり、予算・決算の通過に便宜を図つてもらうなど、その職務に関して便宜を図つてもらうためのものであり、明らかに賄賂罪に該当する行為である。また、右酒食の提供は、一杯のコーヒーやお茶程度ならばともかく、高級料亭や高級スナックでなされたものであり、到底、一般社会の社交儀礼的な範囲内とはいえない。

2  本件各支出は、いずれも本件各会議接待が開催されその費用の債務が確定した日の属する年度とは異なる年度になされたところ、被告らがそのような処理をしたことに合理的な理由はない。

3  本件各支出は、会計規程、事務決裁規程及びこれらに基づく事務処理の細則に関する規定にいずれも反してなされた。すなわち、右規程等では事前に経費支出伺を作成しなければならないこととなつているのに、合理的な理由もなくこれをせず、また、本件各会議接待後も、合理的な理由もないのに、ただちに経費支出伺を作成することなく、開催から、早いもので三か月、遅いものでは一年近く経過した後に作成し、しかも、別表一、二記載のとおり、その会議接待の時期、被接待者等その内容について虚偽の記載をしたばかりか、別表二記載のエン、よし井に対する各支払分のように請求額より多額を支出した分もある。なお、請求額よりも多額を支出した分につき、その差額の支出は明らかに違法である。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(当事者)、同2(公金の支出)、同5(本件監査請求)の事実及び別表一記載の各会議接待が実在しないことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、被告岡崎義彦、同岩田光利各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、大阪府営水道は、同府下の水道事業を行うために地方公営企業法に基づいて設置された、大阪府の経営にかかる地方公営企業であり、大阪府水道部は、右府営水道及び工業用水道の業務を執行するために置かれた管理者(企業管理者)の権限に属する事務を処理させるために同法一四条に基づいて設けられた組織であること、被告岩田は、昭和五七年四月二日から昭和五九年六月三〇日までの間、水道企業管理者として、被告川上は、昭和五七年四月一日から昭和五八年四月三〇日までの間水道部長として、被告松江は、昭和五七年四月一日から昭和五八年四月三〇日までの間水道部次長として、被告岡崎は、昭和五六年四月一日から昭和五八年四月三〇日までの間水道部総務課長として、それぞれ在職していたことが認められる。

二本件請求の適法性について

1  法二四三条の二について

被告らは、法二四三条の二第一項の規定が適用ないし準用されるべき場合には、賠償責任の存否もしくは範囲は同条所定の賠償命令によつて初めて確定されて具体的な義務となるに至り、その責任の実現ももつぱら同条所定の手続によつてのみ図られるべきであつて、民事訴訟によることは許されないとして、原告らが地方公営企業法三四条によつて準用される法二四三条の二第一項に基づく大阪府の被告らに対する損害賠償請求権を代位請求する本件請求を不適法であると主張する。しかし、地方公営企業法三四条で地方公営企業の業務に従事する職員の賠償責任について準用される法二四三条の二が規定する職員に対する賠償請求権は、同条一項所定の要件を充たす事実があればこれによつて実体法上直ちに発生するものと解すべきであつて、同条三項に規定する長(管理者)の賠償命令をまつて初めて発生するものと解すべきではなく、かつ、同条三項以下の規定は、同条一項の職員の行為について同条三項に規定する賠償命令による以外その責任を追及されることがないことまでをも保障したものでなく、法二四二条の二第一項四号の要件を充たす場合には同条項により住民が当該普通地方公共団体に代位して賠償請求権を訴訟によつて行使することは妨げられないと解するのが相当であるから、右被告らの主張は採用できない。

2  法二四二条の二第一項四号の「当該職員」について

法二四二条の二第一項の規定及び住民訴訟制度の趣旨、目的に照らすと、法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至つた者を意味し、右権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当せず、当該訴訟において被告とされている者が右のような地位ないし職にあると認められない者である場合には、右訴えは不適法と解すべきである。これを本件についてみると、本件で問題となつている会議接待費九〇万八七九〇円の支出につき、その原因となる契約を締結し、その支払決定をする権限を本来的に有するとされている者は企業管理者である(地方公営企業法八条、九条八号及び一一号)ことは明らかであり、右権限が他の被告らに委任されていることを認めるに足る証拠はない。

ところで、成立に争いのない乙第五号証によれば、水道企業管理者の訓令である事務決裁規程六条には同部総務課長の「専決」できる事項の一つとして、「一件一〇〇万円未満の予算の執行及び義務的かつ軽易な予算の執行に関すること」(二三号)と規定されていることが認められるが、右乙第五号証、成立に争いのない乙第四号証によれば、事務決裁規程は、水道部の事務の円滑かつ適正な執行の確保等を目的として(同規程一条)制定された企業管理者の内部的な訓令にすぎず、同規程では、「決裁」を「企業管理者の権限に属する事務について、最終的にその意思を決定すること」と、「専決」を「常時、管理者に代つて決裁すること」と定義し、専決とされた事項でも一定の事項については、企業管理者もしくは上司の決裁を受けなければならないこととされて、その制限が定められている(同規程一一条)ほか、専決した者は必要があると認めるとき、または上司から求められたときには専決した事項を上司に報告しなければならないと規定されている(同規程二〇条)こと、一方、企業管理規程(地方公営企業法一〇条参照)である会計規定一九条では「地方公営企業法一三条二項の規定により、会計課長である金銭出納員に次の事務を委任する。」と規定して、会計課長である金銭出納員に対する権限の委任については、同法一三条二項に基く企業管理者の権限に属する事務の委任である旨を明示していることが認められ、右事実に鑑みると、事務決裁規程で一件一〇〇万円未満の予算の執行を総務課長の「専決」事項と定めたのは、企業管理者が、総務課長に対して右事項につき、外部的にはもとより、内部的にも権限を委任したものではなく、単に企業管理者の事務処理の便宜上、総務課長に、自己の権限に属する事務処理を補助執行させることとしたものにすぎないと解するのが相当である。

そうすると、本件の会議接待費九〇万八七九〇円の支出について、その支出行為の権限を有するのは、右支出時である昭和五七年五月三一日当時の水道企業管理者である被告岩田のみであり、その余の被告らは、いずれも、右支出行為を行う権限を有する地位ないし職にある者とは認められないから、右被告岩田を除く被告らは、法二四二条の二第一項四号の「当該職員」には該当せず、したがつて、原告らの右被告らに対する本件訴えは不適法というべきである。

3  監査請求前置について

被告らは、本件請求中、陽気に対する支出二三万四二〇円については、監査請求を経ていないから不適法であると主張する。

前掲乙第一号証によれば、原告らは、本件監査請求において、監査対象とする被告らの違法不当な行為を「架空名義接待など違法不当な会議接待費を自ら費消又は部下や第三者が費消することを了承し、岐阜県や埼玉県の職員接待と称して昭和五七年五月末日に水道部の公金六七万円以上を支出せしめた」ことと特定記載して監査請求し、大阪府監査委員は、これに対して、関係証票及び諸帳簿によつて、昭和五七年五月末日における水道部の会議費の執行状況を調査して、埼玉県職員を接待したとする二件合計二九万八九二五円の支出を確認し、また、岐阜県職員の接待についての支出は確認できなかつたが、同日の会議費の支出事案の中に岐阜市職員の接待を原因とするもの二件合計三七万九四四五円があり、これと前記埼玉県職員の接待に関するものの金額の合計は六七万八三七〇円となつて、原告らの監査請求中に示されている金額六七万円とほぼ符合したので、原告らの本件監査請求の対象は、埼玉県職員の接待に関するものと岐阜市の職員の接待に関するものであるとしてその旨特定して監査をしたことが認められる。右認定事実によれば、本件請求中、本件各支出についての請求が監査請求を経ていることは明らかであるが、陽気に対する支出二三万四二〇円については、原告らがこれを本件監査請求の対象としたものとみることはできないし、陽気における会議接待は、本件各支出にかかる各会議接待とは開催時期、開催場所及び被接待者等を異にし、これとは別個の会議接待とみられ、本件監査請求自体からは、陽気における会議接待が本件各支出にかかる会議接待と一連のものであるとか、これから派生するものであるなど右支出と本件各支出との間に、本件各支出についての監査請求があつたことから当然に陽気に対する支出についても監査すべきであるといいうるような特別な関連があるとは認められないから、本件請求のうち陽気に対する支出二三万四二〇円についての損害賠償を求める訴えは、監査請求前置の要件を充たさないものであつて、不適法というべきである。

三本件各支出の違法性について

1  <証拠>を総合すると、水道部での会議接待費の支出事務の手続は、会計規程(水道企業管理規程第一号)、事務決裁規程(水道企業訓令第三号)及びこれらに基づく事務処理の細目に関する定めなどにより、会議接待を開催する場合には、その主催課において、会議接待開催に先立つて、会議接待の目的、開催年月日、開催場所、出席者、債権者、経費支出予定額、会計年度及び予算科目等を記載した経費支出伺を作成し、その決裁を受けて会議接待を開催する、会議接待開催後、債権者からの請求に基づき、会議接待の主催課において履行の確認を行つて支出伝票を発行し、支出命令についての決裁権者の決裁を受ける、金銭出納員である会計課長が支出伝票を審査したうえ支出決定し、小切手を振出して支払を行う、会議接待一件の費用が一〇〇万円未満である場合にはその経費支出伺の決裁は総務課長の専決とし、同じく一件の会議接待費用が一〇〇万円未満である場合にはその支出伝票の決裁は総務課長代理の専決とする旨規定されていること、本件各支出は、昭和五七年五月上旬ころ、当時総務課長であつた被告岡崎が、総務課の担当職員に指示して、実際には開催されない埼玉県企業局職員、岐阜市水道部職員と水道部職員との会議接待を行うものと仮装して、会議の目的をいずれも「七拡事業調査に伴い水道事業の諸問題について種々懇談のため」とし、開催年月日、開催場所、出席者、債権者、会議費支出金額を別表一記載のとおりとした内容虚偽の経費支出伺を作成させて、みずからその決裁を専決し、さらに、これに見合う支出伝票を作成させて、総務課長代理の専決による決裁及び会計課長の審査を受け、同月三一日、所定の方法で別表一記載の各債権者に対してそれぞれ同表会議費支出金額欄記載の金額を支払うことによつて行われたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  ところで、被告らは、本件各会議接待が行われ、本件各支出は、右会議接待の費用の支払に充てられたもので、本件各会議の目的内容は正当なものであり、その手続も適法であつた旨主張するので、この点について検討する。

<証拠>を総合すると、別表二の開催年月日欄記載の各年月日ころ、同表債権者(開催場所)欄記載の各飲食店において、同表出席者欄記載の水道部職員(企業管理者も含む。)及び大阪府会議員、近畿地建職員、厚生省職員等水道部外の者もしくは水道部の職員組合委員長等水道部内の者が出席して飲食懇談が行われ、その各費用(代金)は、同表会議費欄記載の各金額であつたことが認められる。

そこで、本件各支出が右認定の各会議接待の費用として支出されたものか否かについてみると、この関係の裏付けとなるような債権者からの請求書、領収書、水道部の帳簿、経費支出伺、支出伝票等の書証等客観的な証拠はまつたく提出されておらず、本件において尋問を受けた水道部の幹部職員であつた証人もしくは本人らは、本件各会議接待の時期と本件各支出の時期の両時期を通じて在職し、かつ、本件各支出の経費支出伺の作成に関与しこれを専決した唯一の本人である被告岡崎を含め、いずれも前記の裏付けとなるような書類に直接当つて本件各支出と本件各会議接待との関係を確認してはおらず、本件監査請求に対する監査結果を見て初めてこの関係を知つた旨供述するにすぎず、右各供述は右の関係を認定する証拠としては薄弱といわなければならない。さらに、前記1で認定した会議費支出手続の原則と本件各支出の手続、時期、金額及び本件各会議接待が行われた時期、費用額等を対比して考えると、本件各会議接待が行われた時期は、本件各支出手続が行われた昭和五七年五月より、短いもので約三か月(よし井の昭和五七年二月二五日分、同月九日分、エンの同月一日分)、長いもので約一年(嵯峨野の昭和五六年五月二八日分)も前で、右よし井の二回分とエンの一回分を除いていずれも昭和五六年中であるうえ、本件各会議接待は、エンでは二回、よし井では三回、嵯峨野では四回、それぞれ開催されたのに、本件各支出手続においては、右各店毎に一回の会議接待が行われたこととされており、しかも、右支出手続上、各店毎に、複数回の会議接待費用が一個にまとめられたとしても、本件各会議接待により各店で実際にかかつた費用(代金)と本件各支出により支払われた金額はいずれの店についても一致せず、その差は四万円以上にものぼるもの(嵯峨野分)や本件各支出による支払額の方が実際の費用より多額となるもの(エン及びよし井分)があるなど、本件各支出が本件各会議接待の費用として支出されたとするにはあまりにも不自然な処理というべきである。

被告らは、本件各支出手続が会議開催後に行われたのは、予め予測しえない会議を開催する必要が生じたとか、被接待者の日程を予め把握できなかつたとかの理由によるものであり、ベラローサを除く債権者について数回分をまとめて支払つたのは、同一の店を短期間に数回にわたつて利用したため、債権者においてもその都度請求することなく、昭和五七年度に入つて数回分をまとめて一回分として請求してきたことによるものであると主張するが、被告ら主張のような予測しえない突発的な会議開催が行われたとしても、その会議開催後間もなく支出手続が行われるのが通常であると考えられ、右の事由が会議開催後三か月ないし一年もの長期間支出手続が行われなかつたことの合理的な説明となるとは思われないし、また、飲食業者が会議接待の開催後三か月以上一年間にもわたつて請求書を発行送付しないなどということはおよそ考えられない事態であるうえ、請求書がきたために本件各支出の手続をとつたとすれば、支出金額は当然請求書記載の金額、すなわち実際にかかつた費用額と一致してしかるべきであるのに、前記のとおりこれが相異していることなどからして、右被告ら主張の事由は、本件各支出が本件各会議接待の費用支払のためであることを首肯させるに足りるものではないといわなければならない。

3  右1及び2の事実関係を前提にして本件各支出が違法であるか否かをさらに検討する。

公益事業を営み地方公共団体が経営する地方公営企業は、公共の福祉の増進を図るとともに、常に企業の経済性を発揮し能率的で合理的な運営をしなければならず(地方公営企業法三条)、その経理は、事業毎に特別会計を設けて行い(同法一七条)、住民の負担の公平及び企業の能率的経営を図る見地から原則的にその経費は、当該地方公営企業の経営に伴う収入をもつて充てなければならないこととされ(同法一七条の二)、その会計は、企業経営の能率的な運営と健全な財政を確保するために企業会計原則に従つて行われることとされている(同法二〇条、同法施行令九条ないし一六条参照)。また、企業管理者は、業務に関して管理規程(企業管理規程)を制定することができる(同法一〇条)が、企業の会計事務の処理に関して必要な会計規程についてはその制定が義務づけられ、その会計規程は企業の能率的な運営と適正な経理に役立つよう定めなければならないとされており(同法施行規則一条)、大阪府水道部会計規程は右規則に従つて制定されたものである。ところで、本件各支出は、真実には開催されない会議を開催するものと仮装して作成された内容虚偽の経費支出伺に基づいて行われたものであり、その支出手続は、水道部内の会計規程、事務決裁規程に反することはもとより、地方公営企業法、同法施行令、同法施行規則で定める地方公営企業の会計原則に反する(同法二〇条、同法施行令九条参照)極めて異常な処理であるといわなければならない。また、本件各支出は、内容虚偽の公文書である経費支出伺を作成行使してなされ、犯罪をも構成しかねない極めて異常な手続によつてなされたものであるから、その背景に、被告らはじめ当時の水道部職員の職務に関する不正があるのではないかと疑われてもやむをえないものというべく、その目的の正当性についての主張立証がない限り、違法な公金の支出と推認するのが相当である。したがつて、当時の水道企業管理者及び幹部職員であつた被告らとしては、右各支出が正当な目的のために支出されたものであると主張する以上は、右推認を覆えすに足る支出目的の正当性についての積極的な立証活動が期待されて然るべき状況にあつたにもかかわらず、被告ら及び水道部側は、本訴の証拠保全手続において本件各支出と本件各会議接待との関連性を明らかにするについての重要な資料と考えられる債権者の請求書、領収書等の関係文書の提示を一切拒み、本訴の弁論においても右文書を書証として提出しないばかりか、本人尋問等においても右関係文書の存在、内容を自ら直接確認してこれを供述することを避け、監査委員の認定を事実上追認する供述をなすにとどまるなど極めて消極的な姿勢に終始しているのであつて、前記の本件各支出と本件各会議接待との関連を肯定し難い諸事情に加え、このような本件各支出手続の違法性、被告らの立証態度等をも総合勘案すると、本件各支出が本件各会議接待の費用に充てられたとの事実を認めることは到底できないのであつて、本件各支出が水道企業経営に必要な正当な目的の会議や接待の費用として支出されたものとは認められないから、本件各支出は違法な公金の支出にあたると認めるほかはないというべきである。

四被告岩田の責任について

ところで、地方公営企業の企業管理者が単に内部的な事務処理の便宜上自己の権限に属する公金の支出行為を補助職員を用いてなす場合においては、法二四二条第一項四号の「当該職員」に該当するのは企業管理者のみであつて、右補助職員はこれに該当しないと解される反面、右補助職員に違法な公金支出について故意もしくは過失の帰責事由があるときは、企業管理者は、現実に右支出行為に関与していなくても、補助職員をいわば手足として自己の権限に属する行為を行わせる者として、補助職員の責任をそのまま自己の責任として負うものというべきである。本件では、被告岩田は、前記二2で認定したとおり、本件各支出につき、企業管理者として、その権限を有し、内部的な事務処理の便宜上、総務課長である被告岡崎を自己の手足として自己の権限に属する右支出行為の補助執行を行わせたにすぎないのであり、また、前記三1で認定した事実によれば、被告岡崎は、本件各支出が違法なものであることを知りながら右支出手続を行つたものというべきであるから、被告岩田は、違法な本件各支出によつて大阪府に与えた損害を賠償する責任を免れない。

五損害について

本件各支出の合計額が六七万八三七〇円であることは、当事者間に争いがないから、大阪府は、被告岩田の右違法支出行為により、右金額相当の損害を被つたものというべきである。

六そうすると、原告らは、法二四二条の二第一項四号に基づき、大阪府に代位して、被告岩田に対し、六七万八三七〇円及びこれに対する損害発生後である昭和五八年八月二七日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものというべきである。

よつて、原告らの被告岩田に対する請求は主文第一項掲記の限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対する「陽気」への支出による損害賠償の訴え及び被告川上、同松江、同岡崎に対する訴えは不適法であるから、これをいずれも却下し、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官佐々木洋一 裁判官植屋伸一は転補のため署名捺印できない。裁判長裁判官山本矩夫)

別紙別表一、二<省略>

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